画家の新居田郁夫さんから美しい賀状が届き、
達筆な文字で、初春のスーパー満月の輝きについて言及されていたので、
私と同じように、あの満月を仰ぎ見ていたのだなぁ~と嬉しく、
声も聴きたくなったので、電話すると、
変わらぬ柔らかな声が響いてきた。

新居田郁夫さんは永らく真壁町に在住で、アトリエを兼ねた住居は、、
野口雨情が住んでいたという風情ある古い純日本家屋である。
元日のスーパー満月は、五匹の黒猫と共に見上げたそうである。
黒猫が月明かりに戯れている様子など、想像するだに楽しい光景だが、
昨年の長雨と強風で、庭の木が倒れて屋根を直撃したそうで、
雨漏りがして、私達が泊まったこともある部屋からは空が覗けるらしい。
飛行機の操縦席よろしく身の回りのモノを周囲に集め、
二部屋に集結させて暮らしていると、明るく笑っていた。

郁夫さんには、漆芸家の新居田和人さんというフランス在住の弟さんがおり、
お二人共に、研ぎ澄まされた感性と美意識の持ち主である。
郁夫さん、和人さんの作品には、よく“月”のモチーフが登場する。
それで、「17日は闇夜よ! 31日が満月!」と、月齢に詳しい。

先日落札したブルーのワイングラスは、
何となくブルターニュという感じがしたのでアルベールと名付けたのだけど、
新居田和人さんは、まさしく、ブルターニュに住んでいるのだった。
もともと鎌倉在住だった和人さんがフランスに移住すると決めた時、
私達は、その才能流出を非常に惜しんだものだった。

私は、鼈甲に金蒔絵や螺鈿のほどこされた和人さんのアクセサリーをいくつか持っているが、
小さな作品に宇宙を封じ込めたような、美しい作品である。

〈新居田和人・作/ 蒔絵胸飾〉
蝶のモチーフも多く、私の母方の家紋の一つがが蝶ということもあって、
今でもとても大切に愛用している。

桐の蒔絵箱は、雲間にかげる月齢と、燃えさかる琵琶が描かれ、
側面には揚羽蝶が飛びかい、
内部は、たしか、波間に浮かぶ琵琶とか風に舞う桜の花びらだったように記憶している。
全体として、平家物語といったイメージの装飾桐箱に魅了されて、
分不相応にも購入を真剣に考えたりしたものだが、
もっと作品に見合った方のもとにあるべき、と考えて思いとどまった。

今、この箱は、美しい宇宙を内包しながら、何処を漂っているのだろうか?