翌日、船の時間に会わせて港に向かう。強い太陽の陽射しの下、昨晩は見ることができなかった素敵なヨット(普通、日本のハーバーで見るのとはケタ違い)が、波に遊ばれて上になったり下になったりしている。それを見ていると、アレ!まるで人間みたいだな、と思い、可笑しさが込み上げてきた。少し風が強い。
 11時ごろ、千数百トン程の白い汽船に乗ってエーゲ海に浮かぶ小さな島ミコノス島に向かう。始めのうちは、波もそう荒くはなかったのだが、しだいにうねりが激しくなり、胸の中が、グッ、ググッと込み上げてくる。「俺は、太平洋さえ一度も戻さずに渡ったのだ。鏡のような静かな海と称されているエーゲ海でなんかクタバッテたまるか!」と自己暗示をかけたのだが、暗示より現実の方がよりキビシイ!立っているのもたまらず、寝ていてもどうにもしょうが無い。もう、多くの人達が戻しているのが見える。それを見ていて、日本人の美風?か、こちらもついに連れションならず連れゲー!になってしまい、とにかく甲板でスリーピングバッグにミノムシのようになり、虫の息になって動けない。以前、人が船酔いしている時、「ナーンダ、だらしがない」といっていたのが悔やまれた。その時、思ったネ!船がザブーン砺波をけたて、波しぶきというより波そのものがザザーッとかかってきた時に甲板のベンチにつかまり、濡れた寝袋の中で歯をガチガチさせながら、このまま船がいっちまったら俺も一巻の終わりだなぁ=、と。それほどにひどい嵐だった。これが観光案内では鏡のように静かな海ですと?
 人の話では、六、七時間で着くというところを十時間かかってやっとこさ暗い港についた。船の甲板は地の海ならぬゲロの海と化してイヤーな感じ、一刻も速く下船したかったのだが、やはり荒い波にはばまれ接岸できず、ハシケに乗り移り、あっちへこっちへふらふらになって夢の島ミコノスに着き、ユースホステルに行くと、今日は満員で泊まれないと断られる。とにかく、私の方は情けないが船酔いでフラフラなんだ、床でも良いからと頼み込み、やっとのことで床の上で泊まることにする。先程胃の中のものを皆出してしまったので、腹がへってしょうがないので、ユースのオバハンに聞いて海辺のレストランに行くことにする。
 さあ、建物の外に出て驚いた。目に映るすべてが真っ白なのです。地面から家並み、天井にあたるバルコニーに至るまで白、白、白。船酔いで強い風に吹かれヨタヨタしていた地獄から一転、昇天してしまったような感激をして、波と風とギリシャ音楽のゴッチャになった海辺の屋外レストランの席に着く。まばゆいばかりの灯りと「日曜はダメよ!に似たチャンチャンチャンの音楽」と、その向こうに広がる暗い海の音が全身にしみわたってきて心地よい。今日船の上で出した分まで取り返してやろうと、ワインと魚、ギリシャ風サラダを食べる。
 腹が一杯になったところで、酔って酔ってホステルに帰って、床に寝袋を敷いて寝る。これで金を払うのだから、イヤになってしまう。カタイ床の上に寝ているのだから体が痛くて、何度も寝返りをうっていると、回りのベッドの連中が、なにかモゾモゾやっている。チョット気になりはしたが、今日の旅の疲れで寝てしまった。