山梨に対する県外からの評価で、最も多いのは、
「山梨で良いのは景色だけ」という言葉である。
私にとって、ただ一つ有難かったのは、
甲府線の高速バスの勝沼バス停近くに駐車できるスペースがあって、
そこに駐車して東京に向かえることであった。
鉄道が非常に不便で、車がなければ生活出来ない、この地では、
東京に用事があって高速バスを利用せざるをえない人達が
皆、それなりに気を使いながら、広い側道を利用させてもらっていた。
道幅も広く、駐車しても何の危険があるわけでもないのに、
今夏くらいに、側道の擁壁に突如、駐車禁止のボードがベタベタと打ち付けられた。
注意喚起であろうと思いながらも、他に手立てがないので、若干の不安をかかえながらも、
ボードの途切れたあたりに遠慮がちに駐車して東京での用事をすませたりしていたが、
先日、一斉取り締まりが行われたらしい。

やはり、仕事で東京に行ったり、横浜に両親の介護に行く必要があったりで、
その場所を時折利用していたシングルマザーの姪は、やむなく
大学生の息子に送り迎えを2度ほど頼んだそうだが、
その息子もアルバイトがあったりで、そうそう頼める訳もなく不便この上ない。
私も、その事を聞き及んだので、先日東京に行く用事があって悩んだが、
車の運転が出来なくなっては、どんなに体調が悪くても病院に行く事も出来ないし、
コンビニやスーパーに食料品だって買いに行けない地域なのである。

勝沼バス停までは車で行かないと無理な距離なので、
仕方なく、徒歩で15分位かかる釈迦堂のバス停を使ってみた。
徒歩で15分もかかるので、夜道は危険なので、使える日中の便は1日4本のみである。
今までのように勝沼のバス停を利用できれば1日で済む用事だが、
釈迦堂バス停利用のスケジュールに合わせると1日では無理なので、東京に一泊せざるをえない。
知り合いの個展三ヶ所と、ホームドクターのクリニックの通院である。

東京に一泊して、翌朝、クリニックでの健康相談を済ませ、
住み慣れた中央区をブラブラ散策しながら、銀座の画廊に向かう。

月島から勝ち鬨橋を渡り、隅田川の流れを見ていると、落ち着くなぁ~!

築地の天竹でランチをしていたら、相席のご婦人に、
「キレイな髪色ですねぇ~」「是非、東京に戻ってきて!」と、話かけられた。
埼玉から17年前に中央区に移住してきたらしい。
東京では、皆、フランクである。

銀座の画廊で、フランス在住の画家、山崎修さんに一年ぶりでお目にかかる。
明るい内に帰るために、あわてて新宿に向かい4時過ぎのバスに乗り込んだが、
釈迦堂バス停着は、5時50分。
6時前だが、冬日だから、すっかり日が暮れて付近は真っ暗だった。
4時の前のバス便は2時だから、一泊しても、用事を済ませていたら絶対に間に合わないのである。
徒歩しか手立てが無いので、明かりの無い真っ暗な坂を15分かけて登らねばならない。
途中、停車していた車がライトをつけて、後方から走って来た時には本当に恐怖だった。

東京に隣接する県でありながら、人口は全国でも常に40位より下で、フィジー並み。
人口流出に歯止めの掛からない山梨県では、完全な車社会だが、
道路の車の通行量もまばらで、日中でも、歩いている人は、ほとんどいない。

この様な地域で、通行に危険もない場所を駐車禁止にして、その為に、
私は東京で一泊せざるをえない上に、帰宅の道も、かえって、危険な状況に追い込まれている訳である。
この様な状況を、警察はどのように考えているのであろうか?

横浜から嫁ぎ、30年近くを山梨で過ごし、
今、仕事で東京に出る用事と親の介護の為に横浜に通う姪は、
先日、子供達を呼んで、山梨を出て行く意志を告げたという。
もともと、来春、山梨を出て、東京に行くことに決めていた娘は驚かなかったが、
息子2人はショックを隠しきれなかったという。

私も、明かりの無い、真っ暗な坂道を登りながら、
山梨を出て、東京に戻る事をハッキリと心に決めた。

それぞれ生活を異にする、私を含めた三世代の女性は皆、
山梨を出て行く事にしたのである。

ちなみに、山梨県の空き家率は、全国一位である。
東京に隣接し、状況さえ揃えば、東京通勤も可能な地域でありながら、
人口流出に歯止めがかからないのは、このような事情と県民の体質にあるのだろう。
山梨県としては、税収の減益を改善するために、
県外から、元気なシニアを呼び込もうと、山梨への移住を、積極的に呼びかけているそうな。

山梨県の名誉の為に言い添えると、
「山梨県で良いのは景色だけ」ではなくて、
空気も水もキレイですよ!