トルコ人の船員から、イタリア人が

トランクにはいったスーツの布地を買う話に巻き込まれた

うまい話だ!

イタリア人が、買いたいのだが手持ちの金が少し足りないと残念そうに言う

いつの間にか、彼等の話に参加していて

僕のトラベラーズチェックをわざわざ現金に換えて貸す羽目になっていた

「デポジットとして生地の入ったトランクを預けるから」

「君の行く次の町にある自分の家へ届けてもらえれば、借りた90ドルに

お礼として30ドルを上げる。自分はテイラーなので儲かるので頼む」・・・という

トルコ人船員は積み荷を抜いてアルバイトをしてる風情

旅の中ではよく聞く話だ

少し危ない話だが、ここはマフィアで有名なシチリア島

旅も続けて一年と余か月、ベテランを自負している

自分が引っ掛かるわけがないと信じていた

布地の入ったトランクを持って列車に乗り次の駅を目指す

前の席に座った男が背伸びすると

ベルトに小さな自動拳銃がチラッと見えた

いやな予感が頭を横切ったが

ふ~ん、さすがはシチリアだと変に感心する・・・?

次の駅に着き

駅前のカジェ(道路)ロマーノという通りの教えられた番地を探す

無い!カジェの間を行ったり来たりして探す

無い!無い! 歩いている人に聞く

「そんな番地はない、そんな人も知らない」という

雨が降ってきた、風が吹いてきた、それでも探した

90ドルは長期旅行者にとっては大金だ!

ものすごい風雨の中を探し続けた・・・・・無い!

暗闇になった

チキショー、ハメラレタ!!

この布地は俺に売る商品だったのだ

クヤシーイ!

旅のベテランを自負していたこの俺が

今まで一度も被害にあったこともない俺が

騙された!

それも昔からある古典的な詐欺に騙された!?

宿を見つけてベッドへ入ったがクヤシクテ眠れない・・・

旅のベテランのこの俺が?

騙された!? 信じられない・・・?自信過剰か?

眠れない 夜中じゅう考えて結論を出す

90ドルを騙し盗るために 二人の男がシシリーの街を舞台に

観客は俺一人の猿芝居を演じたと思おう

忘れよう・・・・・しかし悔しい・・・

翌朝シチリア島からイタリア本土へ渡るフェリーの後ろデッキから

布地の入ったトランクを海峡に投げ捨てた

プカ~リ、プカ~リ 流れていく

ザマーミロ! 90ドルは落としたんだ

落としたのさ!・・・

1973年2月 イタリア  宝田久人